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デザイン、創造の力で既成概念を打ち破る印刷加工所

福永紙工株式会社

立川で1963年に創業した印刷会社の「福永紙工株式会社」。同社2代目の山田明良社長は、これまでの業界の慣習を打ち破り、「印刷業」という既成概念を越えたその事業展開は、各所から注目を集めている。創業から54年。山田さんの挑戦は、また新しいスタートを切った。

2017.06.08

最先端の文化が求められる職場から、街の印刷屋さんへ

現在の、福永紙工株式会社を牽引する山田社長

現在の、福永紙工株式会社を牽引する山田社長

バブル全盛期に海外のハイファッションブランドを輸入する、アパレル商社に勤めていた山田社長。常に世界の最先端カルチャー、そして情報に溢れていた職場は熱気に溢れていた。

「当初10人にも満たなかった会社は急成長を遂げ、5年で数十倍の売上げ、社員も80人に。規模が大きくなるにつれ最初の頃の面白さ、クリエイティブな要素は薄れていった」と振り替える。

そんな折、印刷業を営んでいた妻の実家であった同社を継ぐため、退社し、まったく未経験だった未知の世界「印刷業界」へと入っていった

「まさに右も左もわからない世界」。印刷業界の慣習や慣わしに触れる中、印刷の技術やノウハウに正当な評価がされていない現実。またそれを業界全体が普通のこととして受けいれている現状に直面し、困惑した。

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同社の作業風景

同社の作業風景

「デザインと近い業種なのに、クリエイティブとは縁遠い。いかに正確に、いかに早く、いかに安く作れるかにだけ、全体が競い合っていた。何だか思うところがありましたね」と話す。

やがて2代目に就任した山田さんだったが、不景気の波は、まさに印刷業界全体を圧迫して続けていた。「この状況を逆手にとって、先代とは違う、何か新しいことへ挑戦をしなければ」と決意を固めた。

 

いままでにない「紙製品」たちが誕生

そんな中、ある日、偶然、ある人と出会う。大日本印刷、リビングデザインセンターOZONEなどで勤めた後、フリーで活動しはじめたばかりの萩原修さんだった。

 

「地域にデザインでネットワークを作りたいね」。

お互い常々考えていたこと、またお互いに必要としていた部分が重なりすぐに意気投合した。デザイナーの三星安澄さんも参加し、紙を印刷・加工してできる製品の可能性を追求するプロジェクト「かみの工作所」が2006年にスタート。「大好きなデザイン・アートの世界。そこにこそ自分の居場所がある」と山田さんの挑戦が始まった。

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今も続くかみの工作所ミーティングの様子

今も続くかみの工作所ミーティングの様子

とはいえ、「何ができるか、どんなことができるか」の試行錯誤の連続。まさに実験場のような状況が2年ほど続いた。「営業ツールの1つにでもなれば」と、かみの工作所で産み出された紙の試作品を、印刷業の顧客にもってまわるも反応は薄かった。

しかし、デザイン関係者やメディアの反応は違った。斬新なコンセプト、デザイン、商品性に大きな注目が集まる。アパレル時代の経験が甦り、山田さんは「これで勝負できる」と決意。建築家の寺田尚樹さんとの協働プロジェクト「テラダモケイ」として、国際見本市「インテリアライフスタイル展」に出展した。

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2010年に出店したインテリアライフスタイル展

2010年に出店したインテリアライフスタイル展

「最初からすごい反響を得た。当初、思い描いていたところから、声がかかってきた」。同社製品を扱いたいと、ニューヨーク近代美術館「MoMA」や、金沢21世紀美術館など世界的な美術館のショップバイヤーたちから、続々と声がかかった。

 

「デザイン・印刷の技術に適正な評価を与える」同社の仕事

それから10年。現在では約40人の外部デザイナーとの、200以上の同社商品が揃う。2015年に開催した、ペーパーカードのデザインコンペディションでは、学生のデザインが優秀賞を獲得した。製品化した「星空の封筒」は、すでに12,000セット以上の販売を記録している。

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製品化した「星空の封筒」。中を覗くと、プラネタリウムの様な星空が広がる

製品化した「星空の封筒」。中を覗くと、プラネタリウムの様な星空が広がる 

近年で大きな話題となったのが立川市との事業「プレミアム婚姻届」。同社は企画・デザイン・製作、そしてプロモーションまで一貫して手がけ、30ほどの大手メディアにもとりあげられ全国から問い合わせが殺到した。当初、1年で300部程度を予定していたものが結果、増刷が重なり、現在では1日で300部販売されることもある。

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全国から問い合わせがある「プレミアム婚姻届」

全国から問い合わせがある「プレミアム婚姻届」 

「デザイン、製造だけでなくプロモーションも提案したのは、こだわって作ったものだから、しっかりと多くの方に知ってもらい、最終的な成功事例としての結果を出したかったから」と山田さんは話す。

 

今後10年の新しい挑戦へ

同社の人気シリーズ「空気の器」

同社の人気シリーズ「空気の器」

同じく同社の人気シリーズ「テラダモケイ」

同じく同社の人気シリーズ「テラダモケイ」

商品の企画制作、販売を続けて10年経った今年。「今は立ち止まり、考える時」と山田さん。

「過去10年、デザインの力で紙の可能性を追求し、プロジェクトとして、毎年、新製品をリリースし続けてきましたが、ここで少し立ち止まり、時代を見据えて考え方をリセットしてみようと思っております。まますると、急速に変化、ドライブし続ける情報化社会に、翻弄され、消費されてしまう危惧を感じ、一度立ち止まり自分たちの立ち位置や、会社の技術、感性、使命などをもっと深堀りできないか?と考えております。」山田社長の挑戦は、新たにはじまったばかりだ。

 

福永紙工株式会社

代表取締役 山田 明良
本社・工場:立川市錦町6-10-4
TEL 042-523-1515(代表)
TEL 042-526-9215(かみの工作所/テラダモケイ/MABATAKI NOTE/gu-pa/ONE TO SIXTEEN)
FAX 042-527-4632